甘草は市販薬にあると危ないのか?

結論:
不適切な使用はもちろん危ないが、それを防ぐために薬剤師や登録販売者がいる。
きちんと専門職が対応することが大切。何も知らずに使えば危ないのは甘草に限った話ではない。

以下、甘草の副作用リスクから中薬学的役割、そして利水薬と脾気の関係までを一貫してまとめた記事です。参考文献は本文中に番号で示し、末尾にまとめています。


はじめに

甘草(Glycyrrhizae radix)は漢方処方の約70%に配合される「調和の要薬」である一方、体内では偽アルドステロン症を引き起こすほどの強い水分保持作用を持ちます。以下では、「水分保持と偽アルドステロン症リスクは一体のメカニズムである」ことを出発点に、安全な用い方と中薬学的役割を解説します。


1. 偽アルドステロン症リスクと水分保持作用の一体性

甘草に含まれるグリチルリチン(glycyrrhizin)は、腎尿細管内の11β-HSD2酵素を阻害し、コルチゾールがミネラルコルチコイド受容体に結合→ナトリウム保持・カリウム排泄を促進します。その結果、組織間に水分が貯留され、むくみや高血圧、低カリウム血症を伴う「偽アルドステロン症」を発症します[3]。


2. 文献的調査による偽アルドステロン症発症頻度

J-Stage に報告された文献的調査では、甘草の1日投与量と偽アルドステロン症の発症率が用量依存的に上昇することが示されました[1]。メタ解析でも同傾向が確認されています[2]。

甘草 1日用量発症率(平均)
1.0 g1.0%
2.0 g1.7%
4.0 g3.3%
6.0 g11.1%
  • 中用量(2–4 g/日)でも数%のリスクがあり、高用量(6 g/日以上)では10%超。
  • 高齢者・腎機能低下例・利尿薬併用例では、投与開始後3か月以内の発症が約40%に及ぶとの報告もあります[3]。

3. 各種漢方処方における甘草の中薬学的役割

甘草は「性味:甘・平」「帰経:心・肺・脾・胃・肝」という五帰経をもつ万能薬で、主に以下の5つの薬能を担います[4]。

  1. 補中益気(脾胃を補い元気を高める)
  2. 潤肺止咳・袪痰(肺を潤し痰を去る)
  3. 緩急止痛(筋肉のけいれんや痛みを和らげる)
  4. 清熱解毒(炎症・腫れを抑える)
  5. 調和薬性(他の生薬の働きを調整し、副作用を緩和する)

主な処方例と甘草の役割

  • 四君子湯(人参・白朮・茯苓・甘草)
    脾胃気虚の改善を助ける「補中益気」の要として配合[4]。
  • 参苓白朮散(四君子湯+山薬・蓮実・扁豆など)
    脾気虚による下痢・疲労感を補いながら、湿を取り除く「補脾健脾・利水滲湿」作用を高める調和役[9]。
  • 芍薬甘草湯(芍薬+甘草)
    白芍の「補血・緩筋」と甘草の「緩急止痛・補気」が相乗し、筋けいれん性痛を速効的に抑制[4]。
  • 甘麦大棗湯(甘草・小麦・大棗)
    補心益気と“調和薬性”による心神安定、けいれんや不眠を緩和[5]。
  • 苓桂朮甘湯(茯苓・桂皮・白朮・甘草)
    利水薬の湿出作用を甘草の補脾作用で守りつつ、桂皮と協調して気機を調整し、めまい・動悸を改善[6]。

4. 利水薬と「利水傷脾」の注意点

中医学では、強力な「瀉水逐飲」薬(沢瀉など)を単味・大量に用いると、過度に清気・陽気を体外へ排出し、脾の運化・昇清機能が損なわれる「利水傷脾」を招くと警告します[7]。

利水薬タイプ代表生薬脾への影響
燥湿健脾・利水滲湿白朮・茯苓脾気を補いつつ適度に湿を排除。脾気虚を防ぐ (白朮(ビャクジュツ)の効能・使用される漢方薬 西洋医学との関わり, 伝統医薬データベース 白朮 生薬学術情報)
瀉水逐飲(強排水)沢瀉・車前子・通草過度に用いると脾気虚を招きやすい。
  • 白朮:脾胃を温め補いながら湿を滲出。食欲不振・下痢・浮腫・自汗にも応用[8]。
  • 茯苓:脾を補いながら利水安神。水湿内停・めまいにも有効[8]。

おわりに

甘草は水分保持による偽アルドステロン症リスクを正しく理解しつつ、処方内での調和と用量管理を徹底すれば、多様な薬能を安全に引き出せるキーハーブです。また、利水薬の選択と配合バランスが、脾気の健全性を守るための要点であることを押さえておきましょう。

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参考文献

  1. 萬谷直樹 他. 「甘草の使用量と偽アルドステロン症の頻度に関する文献的調査」. 日本東洋医学会雑誌. 66(3):197–202, 2015. (甘草の使用量と偽アルドステロン症の頻度に関する文献的調査)
  2. 並木隆雄. 「甘草を含有する漢方薬の副作用の頻度—偽性アルドステロン症のメタアナリシス」. 医療と薬学. 2015. (甘草を含有する漢方薬の副作用の頻度 【偽性アルドステロン症の …)
  3. 厚生労働省. 「重篤副作用疾患別対応マニュアル―偽アルドステロン症」, 2006. (甘草を含有する漢方薬の副作用の頻度 【偽性アルドステロン症の …)
  4. 中医薬研究開発センター編. 『生薬学講座』. 中山書店, 2010.
  5. 池野一秀. 「甘くみないで甘麦大棗湯」. 漢方と診療 Vol.3 No.2, 2012.
  6. 名城大学東洋医療センター. 「苓桂朮甘湯」, 2019.
  7. 東洋文化備忘録. 「利水傷脾の理論と処方選択」. 2018.
  8. とよた鍼灸サロンHAL「白朮の効能」. 2016. (白朮(ビャクジュツ)の効能・使用される漢方薬 西洋医学との関わり)
  9. HAL鍼灸ナビ. 「参苓白朮散の理論と応用」. 2021. (参苓白朮散 料 エキス細粒G「コタロー」の効能効果・弁証論治・舌 …)
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