小柴胡湯と補中益気湯を「骨格」と「矢印」で読み解く
ポイントだけ先取り
- 両方とも「脾胃を立て直して気をめぐらせる」“共通 5 味”が土台
- 小柴胡湯は〈少陽の熱＋痰湿〉を“上下から挟み撃ち”
- 補中益気湯は〈深い脾気虚＋下陥〉を“補って・持ち上げ・軽く流す”
1 まず「共通 5 味」を押さえる
| 共通生薬 | イメージ | 役割 |
|---|---|---|
| 柴胡 | 気のエスカレーター | 少陽～肝経の気を外へ・上へ動かす |
| 人参 | 電源 | 脾胃を補い、他の生薬が働ける土台を作る |
| 甘草 | 電源タップ | 薬同士を調和しつつ、自らも補気 |
| 生姜 | 点火プラグ | 胃を温め、半夏や柴胡の動きを助ける |
| 大棗 | クッション | 脾を養い、辛味の刺激を和らげる |
ここが骨格。
この5味で「胃腸を守りながら気を動かすレール」を敷き、その上に**処方ごとの“矢印”**を乗せます [2]。
2 小柴胡湯 ──“熱を冷まし・逆気を下げる”矢印
追加の2味でレールの上下と温度を制御。
| 生薬 | どんな矢印？ | 主な症状 |
|---|---|---|
| 黄芩 | 〈冷ます〉少陽胆経の熱をクールダウン | 往来寒熱・口苦・胸脇苦満 |
| 半夏 | 〈下げる〉胃の逆気と痰湿を沈める | 悪心・嘔吐・痰多 |
柴胡が上に引っ張り、黄芩が熱を抜き、半夏が下げる――
“上げ・冷まし・下げる”三層構造で半表半裏の混乱をリセット [2]。
3 補中益気湯 ──“補って・持ち上げ・軽く流す”矢印
5味の骨格に、さらに3つの仕事を足していきます。
| 仕事 | 生薬 | 何をする？ |
|---|---|---|
| ①大量に補う | 黄耆・白朮・（重ねて人参） | エネルギー生産量を底上げし、脾気虚を根本から改善 |
| ②しっかり持ち上げる | 柴胡（少量）＋升麻 | 清陽を頭側へ押し上げ、中気下陥・脱肛・慢性下痢を改善 |
| ③軽く流す | 陳皮 | 補剤でこもる湿や食滞を散らし、胃腸に“抜け”を作る |
少量の柴胡は「肝鬱」ではなく**“昇提スイッチ”として起用。
補っても動かなければ気は滞る──だからこそ縦（柴胡・升麻）と横（陳皮）の動きを添える [1][4]。
陳皮の主成分ヘスペリジンには、実際に胃排出を促す**データが確認されています [5]。
4 「虚なのに柴胡？」の疑問を解く
- 深い脾気虚
- ⇒ 推動力が低下し、気が“動けず停滞”
- 補気薬だけ
- ⇒ 燃料は増えてもエスカレーターが動かず、気が下に溜まる
- 少量の柴胡
- ⇒ エスカレーターを再起動し、清陽を上へ送る
- 副作用を避けるため量は小柴胡湯の1/3〜1/4程度 [3]
足りないから動かない停滞は、まず動かすスイッチが必要――それが補中益気湯の柴胡です。
5 陳皮が入ると何が違う？
- 理気健脾：ゲップ・腹部膨満をサッと散らす
- 燥湿化痰：甘温補剤の“重さ”を打ち消す
- 昇提サポート：柴胡・升麻のバーティカルな力に横の推進力を付与
- 味と香り：甘ったるさを中和し、服薬コンプライアンスUP
要するに、「動く補剤」に仕上げる最終ピースが陳皮です [4][5]。
6 現場での選び方（ざっくりチャート）
- 熱像＋胸脇苦満＋悪心 → 小柴胡湯
- 疲労が主体＋下垂感＋膨満 → 補中益気湯
- どちらもある
- 熱・張りが強ければ小柴胡湯
- 虚と下陥が勝れば補中益気湯（陳皮を活かす）
7 まとめ
- 共通 5 味で「脾胃を整え気を巡らす基盤」を共有
- 小柴胡湯は〈熱・逆気〉を“上下から挟み撃ち”
- 補中益気湯は〈深い虚と下陥〉を“補い・挙げ・流す”
- 柴胡の用量と陳皮の有無が、両者のキャラクターを決定づける
骨格を意識すれば処方の矢印が見える――
その矢印と患者さんの病勢が一致するかどうか、まずはここから考えてみてください。
✅ 漢方の勉強に興味ある方へ
僕の公式LINEでは、無料で学べる『5days漢方セミナー』を配信しています。
初心者の方でも分かりやすい内容で、毎日20分の動画×5本で「漢方って面白い！」を実感してもらえる構成です。
公式LINEの登録はこちらからどうぞ↓
👉 https://lin.ee/XXXXXXX
※登録後すぐに講座がスタートします！（通知が結構来ますがスパルタ式ってことで笑）
参考文献
- 李杲《脾胃論》補中益気湯条（原典）
- Yanagisawa K. Clinical use of Shosaikoto in sub-acute hepatitis, J-Stage, 2023
- 高山ら「補中益気湯で治療した気虚発熱の 2 例」Kampo Med 75(3):225-232, 2024
- Nagoya Kampo College Web. “補中益気湯の方意と臨床例” (閲覧 2025-04-27)
- Jeong JK et al. “Hesperidin improves gastric emptying via vagal pathways in rodents”, Phytother Res 38(1):55-63, 2024
