背中のストレッチで五臓を整えるセルフケアについて

はじめに

東洋医学では、背中に沿って走る「足の太陽膀胱経」の上に並ぶ背部兪穴(ゆけつ)を刺激・伸展することで、対応する臓腑(肝・心・脾・肺・腎・胃)の気血循環を整え、不調を改善すると考えます[1][2]。本稿では、背部兪穴の直感的な位置解説を交えつつ、ストレッチによる中医学的作用機序と臓腑別の具体的セルフケア法をご紹介します。


1. 背部兪穴と臓腑の対応関係

背部兪穴は背面に位置する十二穴のうち各臓腑と1対1で対応し、いずれも足の太陽膀胱経上にあります。押すだけでなく、ストレッチで「その部位を伸ばす」ことで経絡の気血の流れを促進します[1][3][4]。

臓 腑兪穴 (BL番号)位置(直感的イメージ)
肝兪 (BL18)肩甲骨の下角(肩甲骨のいちばん下)の高さ、そこから外へ親指1本分程度[直感]
心兪 (BL15)肩甲骨の内側縁の中央あたり(肩甲骨を寄せたときに張る位置)
脾兪 (BL20)肩甲骨の下端から指1本分下(第11胸椎レベル)
肺兪 (BL13)肩甲骨内側縁の一番上、羽の付け根あたり(第3胸椎レベル)
腎兪 (BL23)ウエストラインの少し上、腰のくびれ位置(第2腰椎レベル)
胃兪 (BL21)肋骨の一番下(第12肋骨)あたりから外へ親指1本分程度

※「肩甲骨」「肋骨の一番下」「ウエストライン」など身近な解剖学的ランドマークでイメージすると、ストレッチ中に狙いたいポイントがつかみやすくなります[3][4]。


2. ストレッチによる中医学的作用機序

  1. 気滞の疏通
    肝気の停滞が胃腸に波及する「肝気犯胃」や脾胃気滞では、張りや膨満感、ゲップなどが起こります。背部兪穴を伸ばすことで膀胱経の気機が動き、これらの症状を緩和します[1]。
  2. 補気・升清
    脾気虚では食後の倦怠感や消化不良が目立ちます。脾兪・胃兪のストレッチは中焦の気を補い、清陽を持ち上げる作用を助けます[2]。
  3. 温煦・利水
    腎陽虚や痰湿タイプでは背部の冷えや筋膜拘縮が見られます。腰部の腎兪をゆるめる動作は、陽気を温め、水液代謝を改善し、むくみやだるさを軽減します。
  4. 自律神経調整
    背中の伸展・側屈により脊柱周囲の交感・副交感神経が適度に刺激され、自律神経バランスが整います。これが五臓六腑の総合的な機能向上につながると考えられます[2]。

また、六経理論では「太陽経(膀胱経)→少陽経(胆経)→陽明経(胃経)」と流れるため、太陽膀胱経を開くと下流の胃経にも良い影響を及ぼします[2]。


3. 臓腑別セルフストレッチ法

以下の動作を、呼吸と連動させながら1ポーズ30秒×2~3セット行いましょう。

肝(肝兪:BL18)

  • 位置イメージ:肩甲骨の下角あたり
  • 動作:片手を頭上に上げ、反対側へ体側をゆっくり倒す。倒しきったところで数回深呼吸。
  • 作用:ストレス緩和、イライラ・頭痛の軽減[4]。

心(心兪:BL15)

  • 位置イメージ:肩甲骨内側の中央あたり
  • 動作:両手を腰に当て、胸椎上部(第5胸椎)を反らすように胸をゆっくり後方へ押し出す。
  • 作用:動悸・不眠・自律神経失調の改善[4]。

脾(脾兪:BL20)

  • 位置イメージ:肩甲骨下端から指1本分下(第11胸椎)
  • 動作:四つん這いで背中を丸め/反らす「キャット&カウ」を繰り返し、第11胸椎を意識。
  • 作用:消化不良、疲労感、下痢の緩和[4]。

肺(肺兪:BL13)

  • 位置イメージ:肩甲骨内側縁の上端(第3胸椎)
  • 動作:両手を前方に伸ばし、肩甲骨を寄せながら胸を開く。
  • 作用:咳嗽・喘息・呼吸促進[5]。

腎(腎兪:BL23)

  • 位置イメージ:ウエストラインの少し上(第2腰椎)
  • 動作:仰向けで膝を立て、腰の下にクッションを置き左右にゆらゆら揺れる。
  • 作用:腰痛、倦怠感、むくみの軽減[5]。

胃(胃兪:BL21)

  • 位置イメージ:肋骨の一番下(第12肋骨)の高さ
  • 動作:両手を後頭部に当て、息を吐きながら胸椎下部を軽く反らす。肋骨下端を押し上げるように意識。
  • 作用:胸やけ、胃もたれ、食欲不振の改善[3][4]。

4. 実践のコツ

  • 呼吸連動:息を吐きながら伸ばし、吸いながら戻すことで気血の巡りが一層促されます。
  • 頻度:朝起床直後と夜の習慣に取り入れると継続しやすい。
  • 強度調整:陰虚タイプ(乾燥感やのぼせ感が強い人)は軽めのストレッチから始め、無理は禁物。

おわりに

背部兪穴を意識した背中ストレッチは、東洋医学の「経絡を開く」セルフケアの要です。五臓それぞれに対応したストレッチを日々取り入れ、体質や症状に合わせて調整すれば、消化・呼吸・代謝・精神面まで幅広くサポートできます。ぜひご自身の暮らしに取り入れてみてください。


参考文献

  1. 鍼灸院神尾コラム「背部兪穴とは ~腰背部に並ぶ臓器を癒すツボ~」
    https://harikanwo.com/column/index.php?e=67
  2. J-Stage「体幹部の五行の経脈と背兪穴についての考察」
    https://www.jstage.jst.go.jp/article/kampomed1982/36/4/36_4_253/_pdf
  3. 桃華堂「BL21 胃兪(いゆ)の位置」
    https://k-tokado.com/meridian/bl21
  4. ひごころ治療院「足の太陽膀胱経のツボ完全ガイド」
    https://higokoro.com/acupuncture-points/bladder-meridian/
  5. 東洋文化備忘録「足の太陽膀胱経経穴の効能と場所一覧」
    https://tobunroku.com/jingxue7
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