1|処方の来歴と対象像
参苓白朮散(じんりょうびゃくじゅつさん)は宋代の『太平恵民和剤局方』に載る“四君子湯強化型”処方で、胃腸が弱く + 余分な水分が滞る――そんな「脾胃気虚 × 痰湿停滞」の体質をねらう[1]。四君子湯(補気健脾)に“化湿・止瀉・理気”薬を追加し、補気・利湿・止瀉をワンセットで行うのが最大の特徴。
2|配合生薬と役割マップ
機能ブロック | 生薬 | 主要薬能・キーワード |
---|---|---|
補気健脾 | 人参・白朮・山薬 | 消化吸収を底上げ、清陽を昇提[1] |
利水除湿 | 茯苓・薏苡仁 | 余分な水分・痰湿を排出[7] |
化湿止瀉 | 扁豆 | 健脾化湿・和中止瀉;暑湿の嘔吐下痢にも[5] |
〃 | 蓮子肉 | 補脾止瀉+収斂/養心安神/益腎固精[3] |
芳香理気 | 縮砂(砂仁) | 芳香化湿・温脾止瀉・理気安胎[4] |
宣肺引経 | 桔梗 | 宣肺祛痰・排膿;薬力を上焦へ導く“船楫”[6] |
調和諸薬 | 甘草 | 方全体の緩急調整・抗炎症[2] |
ワンポイント
肺と大腸は表裏関係。桔梗が肺気を宣散すると大腸気機も整い、慢性下痢の改善がスムーズになる[6]。
3|相互作用で見る “三段活用”
- 補気益脾 人参・白朮・山薬でエネルギー源を補給し、脾胃の運化を再起動[1]。
- 利水滲湿+化湿止瀉 茯苓・薏苡仁が余分な水分を抜き、扁豆・蓮子肉が腸管を引き締め慢性下痢を止める[3 ,5 ,7]。
- 理気開胃+宣肺引経 縮砂が気機を巡らせて食滞を散じ、桔梗が薬効を上焦へ押し上げ、肺-大腸ルートで排泄を後押し[4 ,6]。
この三段活用に甘草が緩衝材として絡み、過不足を調える。結果、脾胃虚弱・湿邪停滞型の食欲不振/下痢/浮腫を一本でカバーできるわけだ。
4|臨床応用のヒント
症候の目安 | 参苓白朮散がフィットするサイン |
---|---|
便質 | 泥状~水様・臭い少なく長期化 |
舌象 | 淡胖・白膩苔 |
体型 | やせ型~色白で疲れやすい |
併発 | 食後膨満・むくみ・帯下・倦怠感 |
「四君子湯だけでは下痢が止まらない」「苓桂朮甘湯では利尿が強すぎる」――その間を埋める処方として重宝。熱をほとんど高めないため高齢者の長期服用にも向く[1]。
5|OTC 製剤例
製品名(第2類) | 1日量中エキス量 | 特徴 |
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参苓白朮散料エキス顆粒〈クラシエ〉 | 3,400 mg | 食前/食間 1包×3 回[2] |
参苓白朮散料エキス細粒G〈コタロー〉 | 2,000 mg | 散剤に近い口当たり[1] |
6|安全性と服薬指導
- 甘草関連副作用:偽アルドステロン症(高血圧・浮腫・低K血症)やミオパチーに注意。腎・心疾患、高齢者では服用期間・用量管理を[2]。
- 併用注意:利尿薬・ステロイド・グリチルリチン製剤など。
- 妊娠悪阻への応用:縮砂の安胎作用で比較的安全とされるが、長期大量は避ける[4]。
参考文献・情報源
- 小太郎漢方製薬「参苓白朮散料」製品解説ページ
- クラシエ薬品「参苓白朮散料エキス顆粒」添付文書
- 蓮子肉(蓮子)の薬理・臨床情報(薬用植物データベース)
- 伝統医薬データベース「縮砂(砂仁)」生薬情報
- 白扁豆の健脾化湿作用に関する中薬解説(中医薬ハンドブック)
- 桔梗の宣肺・引経作用に関する生薬解説(中薬学)
- 薏苡仁・茯苓の利水滲湿作用(中薬データベース)