――冷え・のぼせ・月経痛…“こじれた婦人科不定愁訴”をやさしくほどくライトミックス方剤――
1. 基本プロフィール
観点 | 要点 |
区分 | 第2類医薬品(ティーバッグ煎剤)。1包=12.5 g |
適応症(添付文書) | 更年期障害・月経不順・月経痛・血の道症・産前産後の諸症状など“婦人諸病”全般 |
1日用量 | 成人1–2包を熱湯で振り出し、通常は朝夕(症状が強ければ3回)食前服用 |
構成生薬16味 | 当帰・芍薬・地黄・川芎・牡丹皮・桃仁/人参・甘草/桂皮・丁子・生姜/香附子・橙皮/蒼朮・茯苓/黄連 |
2. “設計図”を俯瞰する
2-1 治法の骨格
補血 × 活血 × 温経散寒 を軸に、理気・燥湿・微清熱 を薄く重ねた多機能ブレンド。
→ 血虚・瘀血・気滞・寒湿 が同居し、さらに 上熱下寒 を呈する複雑像に“一度に薄く当てる” 発想。
2-2 モジュール別の働き
モジュール | 生薬 | 狙い |
補血 | 当帰 2 g・芍薬 2 g・地黄 0.5 g | 血虚による冷え・倦怠・めまいを補う |
活血化瘀 | 川芎 1 g・牡丹皮 1 g・桃仁 0.4 g | 月経痛・刺痛・顔色暗さを解消 |
補気 | 人参 0.1 g・甘草 0.4 g | 脾肺気虚を底上げし生薬間を調和 |
理気 | 香附子 0.5 g・橙皮 0.7 g | 胸腹部膨満と情緒不安を緩める |
温経散寒 | 桂皮 1.5 g・丁子 0.1 g・生姜 0.1 g | “巡らせて温める”浅い層の寒冷を払う |
燥湿利水 | 蒼朮 1 g・茯苓 1 g | むくみ・重だるさ・脾胃の湿阻を捌く |
清熱抑火 | 黄連 0.2 g(ごく微量) | 上半身のほてり・口渇をソフトに鎮める |
⇢ 特徴:どのブロックも“効かせ過ぎない” ため誤治が少ない。
3. 典型的な証と症候
項目 | 内容 |
証(病機) | 血虚瘀血挟寒・気血両虚挟気滞・寒熱錯雑など |
体質イメージ | やや虚弱〜中等体力。手足は冷えやすいのに顔はほてりやすい |
主な訴え | 月経痛・月経不順/冷えのぼせ/むくみ・重だるさ/頭痛・肩こり/情緒不安・抑うつ/疲労感 |
舌脈 | 舌:暗紅〜淡紅、辺縁に瘀点、苔白やや湿/脈:細または弦細・やや渋 |
4. “誤治しにくい”安全設計
抑制した領域 | 不使用生薬 | 避けられる誤治 |
強い清熱・峻下 | 大黄・芒硝 | 下痢・冷やし過ぎ |
強温裏・回陽 | 附子・乾姜 | 出血・動悸・火旺 |
強疏肝昇発 | 柴胡 | 気の昂ぶり・虚脱 |
強燥湿苦寒 | 黄芩・黄柏 | 乾燥化・脾陽損傷 |
結論:虚寒〜中間証で“外し”が起こりにくい中庸処方。
5. 苦手領域と補強策
シーン | 理由 | 補う/切替処方 |
深い腎陽虚・四肢厥冷 | 附子・乾姜なし | 真武湯/当帰四逆加呉茱萸生姜湯 |
強い実熱便秘 | 大黄なし・清熱弱 | 女神散/桃核承気湯短期併用 |
胸脇苦満・重いストレス | 柴胡なし | 加味逍遙散・逍遙散併用 |
産後悪露遷延+虚脱 | 活血はあるが温裏力不足 | 芎帰調血飲第一加減へスイッチ |
6. 近縁処方との比較早見表
処方 | 体力 | 熱像 | 作用の強さ | 使い分けヒント |
中将湯 | やや虚〜中等 | 冷えのぼせ(軽度熱) | 中庸 | 不定愁訴が多彩/冷え+むくみ |
女神散 | 中等〜やや実 | のぼせ+便秘(実熱) | 清熱・降気・瀉下が強め | 便秘・気逆が前面 |
芎帰調血飲第一加減 | 虚証寄り | 裏寒>熱 | 温裏・活血が強め | 産後・術後の血虚瘀血 |
7. 具体的な運用ステップ
- 冷えの深さ をチェック
- 四肢氷のよう…附子系検討
- 末端は冷えるが温浴で改善…中将湯向き
- 便通と胸脇苦満 を確認
- 便秘著しい→女神散 or 大黄含有方を短期追加
- 胸脇苦満・強ストレス→柴胡系を補う
- 産後経過 を聴取
- 悪露停滞+虚弱→芎帰調血飲へ
- むくみ・疲労・多彩な愁訴 が混在し、深刻な実熱がない場合に 中将湯を第一選択。
- 必要に応じて 2–4週間で再評価、証が変われば速やかに処方も変える。
8. まとめ
中将湯は「虚寒気味で血が不足し巡りも滞り、冷えとのぼせが同居する女性」のためにデザインされた
“巡らせて温めるライトミックス” 方剤。
- 強烈に温めも冷やしも下しもしないため誤治が少なく、
- 月経痛・更年期ホットフラッシュ・むくみ・抑うつなど 多彩な不定愁訴をまとめて薄く改善 しやすい。
- 一方、深い裏寒・実熱便秘・激しい肝気鬱結 には単独では力不足。
- 附子・大黄・柴胡・乾姜 を含む方剤と“階段状に使い分ける”ことで、
安全性と適中率を両立できる。
臨床では 冷えの深さ・便通・ストレス・産後既往 を四つのスイッチに、
中将湯・女神散・芎帰調血飲などを 柔軟に組み替えるのが勝ち筋 です。
—これで、中将湯の構造・狙い・限界がクリアに見えたはず。
患者さんの“微妙なこじれ具合”に合わせて、ぜひ使い分けてみてください。