【会話パート】
A:
最近、夜に眠れなくて困ってます。
B:
寝つきが悪いですか?それとも途中で目が覚めてしまいますか?
A:
どちらかというと、夜中に目が覚めてそこから眠れなくなる感じです。
B:
日中に疲れやすさ、冷え、動悸や不安感などはありますか?
A:
はい、疲れやすいし、ちょっと動悸がすることも。あと下半身が冷える感じがあります。
B:
夢を多く見たり、寝汗、腰のだるさなどはどうですか?
A:
夢はほとんど覚えてないですけど、寝汗は少しあるかも。腰がだるい感じはたまにあります。
B:
性欲や精力に変化はありますか?夜間に夢精することや、尿が近いなどのことは?
A:
実は最近、そういう夢を見ることが増えました。あと、トイレも近くなってきたかもしれません。
B:
舌の状態や脈の様子は?
A:
舌は淡くて、苔は少なめ。脈は弱い感じだと医者に言われました。
B:
ありがとうございます。この場合は「桂枝加竜骨牡蛎湯」が合うと思います。
【解説パート】
◆ 証の決定:
腎虚+心神不安(腎陽虚中心)
Aさんの訴える「夜間の中途覚醒」「下半身の冷え」「疲労感」「動悸」「夢精」「頻尿」「淡舌・弱脈」などから判断すると、明らかに虚証が基盤となり、特に腎陽虚に起因する心神の不安定化と考えられます。
これは、陰虚や肝火のような「実熱」ではなく、**「虚労(きょろう)」に伴う“心と腎の不通”**という形で現れる「不眠」の代表例です。
◆ 処方の選択理由:
桂枝加竜骨牡蛎湯
この方剤は、『傷寒論』に由来し、虚労・心悸・夢精などの「虚による動揺(=驚きやすさ、落ち着きのなさ)」に対して用いられます。
構成生薬(桂枝湯ベースに竜骨・牡蛎を加える):
- 桂枝・芍薬・生姜・大棗・甘草:気血の調和、衛気の調節、脾胃の補助
- 竜骨・牡蛎:収斂・安神作用。虚による浮き上がり(陽浮)を抑える
適応症状:
- 虚弱体質・慢性疲労
- 精神不安・焦燥感・驚きやすさ
- 夢精・遺精・頻尿・多汗・不眠
つまり、「心腎の虚と浮陽の不安定化」があって、それが虚熱ではなく陽虚や気虚寄りならば、酸棗仁湯や天王補心丹ではなく桂枝加竜骨牡蛎湯が選ばれるのです。
◆ 他の処方との使い分け
処方名 | 証 | キーワード | 特徴的症状 |
桂枝加竜骨牡蛎湯 | 腎陽虚+心神不安 | 虚労・夢精・不眠 | 冷え、夢精、動悸、中途覚醒 |
酸棗仁湯 | 心肝陰虚・心血虚 | 虚煩不眠・夢・寝汗 | 顔ほてり、口渇、舌紅少苔 |
天王補心丹 | 心腎陰虚 | 陰虚・不安・口渇 | めまい、耳鳴り、腰膝軟弱 |
加味帰脾湯 | 心脾両虚 | 心身疲労・血虚・不安 | 食欲不振、疲労、夢・動悸 |