ビスラットゴールドEX

はじめに

ビスラットゴールドＥＸ（第２類医薬品）は、小林製薬が販売する肥満症やそれに伴う便秘・肩こり・頭痛などの補助的改善を目的とした漢方製剤です。本稿では、PMDAの添付文書やメーカー訴求、国内外の研究データを踏まえ、科学的根拠と臨床的意義を批判的に検討します。

1. 添付文書情報の整理【1】

• 効能・効果：体力充実感の向上、肥満症、常習便秘、高血圧・肥満に伴う肩こり・頭痛、胃炎、神経症など
• 用法・用量：成人（15歳以上）1回5錠を1日2回、食前または食間に服用（15歳未満は服用禁止）
• 主要構成生薬（1日量10錠中）
  
  • 大柴胡湯乾燥エキス 2.4 g（柴胡3.6 g、半夏2.4 g、芍薬1.8 g、枳実1.2 g、姜0.6 g、黄芩1.8 g、大棗1.8 g、大黄0.6 g）
• 禁忌・相談事項：他の下剤併用禁止、授乳中要注意、体力虚弱・下痢しやすい人は医師・薬剤師に相談
• 主な副作用：下痢（常に）、発疹・かゆみ、腹痛、まれに間質性肺炎・肝機能障害  

2. メーカー訴求の整理【2】

小林製薬の製品情報では、以下のような効果をうたっています。

1. 女性ホルモンを整えて代謝を上げる（45歳からの更年期太り対策）
2. 部分的脂肪（お腹・二の腕）の減少（40代・50代の部分痩せ）
3. 便秘傾向の改善・むくみ軽減（便通促進・余分な水分排出）
4. 肩こり・頭痛の補助改善（肥満症、高血圧に伴う不快症状）
5. 体力充実感の向上（日常のだるさ・疲労感に対する活力補充）  

3. 科学的エビデンスの概観

3.1 膵リパーゼ阻害作用（動物／in vitro）

マウスおよびin vitro試験で、大柴胡湯エキスは膵リパーゼ活性を濃度依存的に抑制し、血清中トリグリセリドを有意に低下させることが報告されています  。主に黄芩（Scutellariae Radix）が阻害成分と推定され、肥満改善のメカニズム候補とされています。

3.2 MC4R欠損マウスモデルでの代謝改善（動物）

メラノコルチン4受容体（MC4R）欠損肥満マウスに大柴胡湯を10％配合した高脂肪食を投与すると、褐色脂肪組織のUCP1発現増加や肝臓での脂肪分解促進が認められ、体重・脂肪肝が改善されました  。

3.3 NAFLD併発肥満患者へのパイロット臨床試験

非アルコール性脂肪肝疾患（NAFLD）を併発する肥満患者60名を対象に、大柴胡湯3 g×3回/日を12週間投与する二重盲検試験のプロトコールが報告されていますが、現時点で有効性に関する統計的結果は未報告の予備研究です  。

3.4 本態性高血圧患者における血圧変化（臨床観察）

臨床と研究誌掲載の観察研究（n＝22、収縮期血圧150.8 ± 15.3 mmHg→3か月後148.3 ± 19.5 mmHg、拡張期血圧105.8 ± 6.9 mmHg→104.2 ± 8.3 mmHg）では、降圧傾向は一部にみられたものの、統計的有意差は認められていません  。

3.5 大黄抽出物による便秘改善RCT（ヒト）

中年男女（平均58歳、95％女性）13名/群で、ルビ計算で12.5 mg・25 mg/日の大黄抽出物を30日間投与した二重盲検プラセボ対照試験では、24時間あたりの排便回数・便性状の改善が両群でプラセボを上回り、安全性にも問題がなかったと報告されています  。

4. 批判的吟味

4.1 内的妥当性

• 動物／in vitro試験：用量・濃度依存性は確認されているが、ヒト吸収動態や薬物相互作用の評価に欠ける。
• MC4R欠損マウス：遺伝的モデルであり、ヒト一般肥満への外挿は困難。ランダム化・盲検化も不明。
• NAFLDパイロット試験：無作為化・プラセボ対照は計画段階。サンプルサイズは探索的。
• 高血圧患者観察研究：プラセボ対照なし、併用降圧薬や回帰トゥーザミーンの影響を除外できない。
• ヒト便秘RCT：プラセボ対照かつ二重盲検でデザイン良好だが、対象集団は慢性便秘症患者ではなく「便通不良を訴える中年者」である点に注意。

4.2 外的妥当性

• 試験用製剤の抽出条件や用量が本製品の「大柴胡湯乾燥エキス2.4 g」と必ずしも一致しない。
• 動物データは本剤配合量に換算した場合のエクスポージャーが不明瞭。
• 日本人中年女性の肥満・更年期太り対策としての一般化には追加検証が必要。
• 本剤は7～8種の生薬混合エキスであり、単一生薬データからの推論には限界がある。

5. メーカー訴求の評価

1. 女性ホルモン調整作用
   
   • 臨床エビデンスは未確認。直接的なエストロゲン・プロゲステロン調整作用を示す論文はない。
3. 肥満改善効果
   
   • 膵リパーゼ阻害やMC4R欠損マウスでの改善作用は動物実験レベルの報告にとどまり、ヒト有効性は未立証。
5. 降圧効果
   
   • 本態性高血圧患者研究で有意差なし。降圧薬としての根拠は乏しい。
7. 便秘改善・むくみ軽減
   
   • 大黄由来の便秘改善作用はヒトRCTで示唆されている。ただし本製剤全般としての便秘改善効果は大黄成分によるものであり、むくみ軽減作用はエビデンス不十分。
9. 肩こり・頭痛・体力充実感
   
   • 脂質代謝改善や肝機能改善による間接的効果として期待できる可能性はあるが、臨床試験での検証はない。

6. 結論と臨床的示唆

• ビスラットゴールドＥＸに含まれる大柴胡湯乾燥エキスは、動物実験や初期臨床試験で代謝改善や膵リパーゼ阻害作用を示すものの、ヒトにおける肥満改善・降圧効果は未確立です。
• 便秘改善目的で用いる場合、大黄成分の便通促進効果が主因と考えられ、24時間以内の排便回数・便性状改善が報告されています。
• 「更年期太り対策」など女性ホルモン調整を訴求する表現には根拠がなく、使用時には副作用（下痢・肝機能障害など）や他の薬剤との相互作用に注意が必要です。
• 今後、標準化された用量・組成での大規模ランダム化比較試験が求められます。

参考文献

1. 医薬品医療機器総合機構（PMDA）. ビスラットゴールドEX 添付文書 [Internet]. (Accessed 2025-05-02).
2. 小林製薬株式会社. ビスラットゴールドEX 製品情報 [Internet]. (Accessed 2025-05-02).
3. Matsuo Y, Matsumoto K, Inaba N, Mimaki Y. Daisaikoto inhibits pancreatic lipase activity and decreases serum triglyceride levels in mice. Biol Pharm Bull. 2018;41(9):1485–1488. doi:10.1248/bpb.b18-00324
4. Morita S, Sakamaki A, Koyama K, et al. Daisaikoto improves fatty liver and obesity in melanocortin-4 receptor gene-deficient mice via the activation of brown adipose tissue. Sci Rep. 2022;12:10105. doi:10.1038/s41598-022-14371-y
5. Neyrinck AM, Rodriguez J, Taminiau B, et al. Constipation Mitigation by Rhubarb Extract in Middle-Aged Adults Is Linked to Gut Microbiome Modulation: A Double-Blind Randomized Placebo-Controlled Trial. Int J Mol Sci. 2022;23(23):14685. doi:10.3390/ijms232314685
6. 臨床と研究編集委員会. 本態性高血圧症患者における大柴胡湯の血圧および血清リポ蛋白・LCAT活性に対する影響. 臨床と研究. 1992;20(11):943–948.
7. Han K, Kwon O, Park HJ, et al. Effect of Daesiho-tang on obesity with non-alcoholic fatty liver disease: a study protocol for a randomised, double-blind, placebo-controlled pilot trial. Trials. 2020;21(1):128. doi:10.1186/s13063-020-4068-y