キヨーレオピン w——市販滋養強壮剤の実力をEBMで読み解く

1. 製品概要と添付文書情報

キヨーレオピン w(以下 KLE)は、濃縮熟成ニンニク抽出液を主成分に、肝臓分解エキス・ビタミン B₁・ビオチンを配合した第3類医薬品である。添付文書では「滋養強壮」「虚弱体質」「肉体疲労・病後の体力低下」「胃腸障害・栄養障害」「発熱性消耗性疾患」「妊娠授乳期などの栄養補給」への使用が認められている[1]​。

用法は 15 歳以上 1 mL ×2/日、8 – 15 歳 1 mL ×1/日。添付のゼラチンカプセルに薬液を入れて直ちに服用する。


2. メーカーが訴求する効果

湧永製薬の公式サイトは、KLEの特長として①熟成ニンニクによるスタミナ維持と血流改善、②肝臓エキス・ビタミンによる代謝サポート、③家族で使える安全設計を掲げる[2]​。これは一般ユーザーが期待するイメージであり、エビデンスの強度は問われていない。


3. 成分別エビデンスの整理

成分主な研究エビデンス強度臨床的含意
熟成ニンニク抽出液マウス疲労モデルで持久時間↑・乳酸↓[3]、中年アスリート12 週間介入で動脈硬化指標↓・回復時間短縮[4]動物+小規模非盲検ヒト試験。質は中程度抗酸化・抗疲労作用の可能性[5]
肝臓分解エキスCFS患者15 名クロスオーバーRCT(筋注)で疲労改善効果なし[6]、WebMDも同結論[7]小規模・投与経路相違。質は低疲労改善を裏付けるデータは乏しい
ビタミン B₁マルチビタミン28 日投与で持久力↑・主観的疲労↓[8]ビタミンB₁単独ではなく盲検情報不明エネルギー代謝補助[9]
ビオチン欠乏マウスの運動能回復[10]ヒトRCTなし臨床意義は限定的

未調査効能
胃腸障害・栄養障害・発熱性消耗性疾患・妊娠授乳期への効果を直接検証したRCTは見当たらない。


4. 既存臨床試験(公開されていない社内報含む)の批判的吟味

研究デザインN有効率限界
柴田 1982[11]​​単群前後比較 4–8 週29有効以上 76%対照群・盲検なし、小規模
水野 1983[12]​​単群前後比較 4 週 (一部8 週)33有効以上 49%高齢・多疾患混在、統計解析不足
中澤 1983[13]​​多施設単群 4 週238有効以上 61%プラセボ不在、多重評価、15%副作用

共通する問題点

  • 対照群・無作為化・盲検化がない → プラセボ効果を排除できない
  • 主観症状頼み → 客観的アウトカム(運動試験・QOL)が不足
  • 統計的検出力・多重比較調整の欠如
  • 製剤・抽出法が現行品と同一である保証がない(40 年以上前)

結論:これらの社内系データは仮説生成レベルに留まり、現行添付文書の裏付けとは言い難い。


5. EBM的統合評価

  1. 内的妥当性
    • 主成分のニンニク抽出液は一定の機序的 plausibility があるが、RCT の質・量とも不十分。
    • 肝臓エキス・ビオチンについては有効性を支持する臨床データが極めて乏しい。
  2. 外的妥当性
    • 既存ヒト試験はアスリートや高齢者など限定集団で、一般ユーザーへの一般化に課題。
    • 投与量(1 mL×2)と研究用量の整合性を示す報告がほとんどない。
  3. 利益相反の可能性
    • 3 報ともメーカー資金提供(社内報)と考えられ、報告バイアスに注意。
  4. 安全性
    • 過去試験での副作用は胃部不快感が主。添付文書でも重大な副作用記載はなく、市販後長期使用歴から重篤リスクは低いと推定。

6. 実務への示唆

使用場面推奨度根拠コメント
軽度の疲労感・倦怠感△(弱い推奨)小規模非盲検試験+動物データ疲労軽減を訴える患者に「試してみたい」程度なら選択肢。ただしプラセボ効果を説明すべき。
病後の体力低下・高齢虚弱高齢者単群試験客観的改善指標に乏しい。食事・運動・睡眠指導を優先。
胃腸障害や妊娠授乳期の栄養補給×(エビデンスなし)成分・臨床試験とも裏付け不足他剤・食事指導を検討。
発熱・感染症の消耗×データなし解熱後の栄養補助として使用する場合も効果未検証。

7. まとめ

  • 添付文書は広範な効能を掲げるが、高い質のRCTは存在しない
  • 熟成ニンニク抽出液には抗疲労・抗酸化の生理作用が示唆されるものの、臨床的有用性は仮説段階
  • 1980 年代の単群試験はプラセボ対照がなく、現行製剤への一般化にも限界。
  • 安全性は概ね良好だが、主な副作用は胃部不快感。
  • 患者へは「滋養強壮剤として軽度の疲労感に短期的に試用する選択肢」として提示し、食事・睡眠・運動の生活改善を第一選択とする説明が望ましい。

参考文献

  1. PMDA 添付文書「キヨーレオピン w」(改訂R02)​
  2. 湧永製薬 公式サイト「キヨーレオピン シリーズ製品情報」​
  3. Aged Garlic Extract improves endurance in mouse forced-swim model(2019)​
  4. Allen L et al. Twelve-week Kyolic aged-garlic supplementation in endurance athletes(2021)​
  5. Arreola R et al. Garlic bioactives and redox modulation(Review, 2015)​
  6. Plioplys AV et al. LEFAC in chronic fatigue syndrome: randomized crossover trial(1998)​
  7. WebMD Monograph “Liver Extract – Effectiveness”(2024更新)​
  8. Hughes C et al. Multivitamin supplementation and exercise performance: RCT(2019)​
  9. 厚生労働省「日本人の食事摂取基準2020 年版 解説」ビタミンB₁項目​
  10. Biotin deficiency impairs physical performance in mice(2020)​
  11. 柴田博「キヨーレオピンの臨床的検討」一新薬と臨床 31(8) 1982 pp.519-525​​
  12. 水野尚敏ほか「キヨーレオピンの臨床的検討」一新薬と臨床 32(10) 1983 pp.671-678​​
  13. 中澤朗ほか「ニンニク配合製剤の臨床的検討—疲労回復を中心として」一新薬と臨床 32(2) 1983 pp.123-131​​

臨床現場のワンポイント

「短期的な疲労感に“滋養強壮剤”を試したい」という患者には、**“効果は限定的だが比較的安全”**と正直に伝えたうえで、栄養・休養・運動の基本を中心に指導すると信頼が高まります。

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