キヨーレオピン wとエビオス錠の比較

はじめに

疲労回復や栄養補給を目的とした市販薬の中でも、キヨーレオピン w(以下 KLE)とエビオス錠は長年使われてきた定番です。本稿では以下を網羅的に整理し、現場での最適な使い分けを提案します。

  1. 添付文書・メーカー情報
  2. 栄養成分の詳細比較
  3. 成分別エビデンスの整理
  4. 1980–83 年度の社内臨床試験レビュー
  5. EBM 的批判的吟味
  6. ケース別使い分けガイド
  7. まとめと実務への示唆

1. 添付文書・メーカー情報

1.1 キヨーレオピン w(KLE)

  • 医薬品区分:第3類医薬品(滋養強壮剤)
  • 製造販売元:湧永製薬株式会社
  • 効能・効果(大人15歳以上)
    • 滋養強壮、虚弱体質、肉体疲労・病後の体力低下
    • 胃腸障害、栄養障害、発熱性消耗性疾患
    • 妊娠授乳期の栄養補給
  • 用法・用量
    • 15歳以上:1回1 mL(カプセルに充填)×2回/日
    • 8~15歳未満:1 mL×1回/日(8歳未満は服用禁止)

1.2 エビオス錠

  • 医薬品区分:第3類医薬品(整腸・栄養補給剤)
  • 製造販売元:エビオス錠製造販売元(アサヒグループ食品)
  • 効能・効果
    • 胃腸の働きを整え、食欲不振、胃弱、消化不良、栄養補給に適応
  • 用法・用量
    • 15歳以上:1回10錠、1日3回(合計30錠)​

2. 栄養成分の詳細比較

栄養素カテゴリキヨーレオピン w<br>2 mL/日(1 mL×2)エビオス錠<br>30錠/日
エネルギー0 kcal22.3 kcal
たんぱく質微量(肝臓分解エキス由来100 mg中)3.9 g
脂質0 g0.28 g
炭水化物0 g0–0.40 g
食物繊維0 g2.0 g
ビタミンB₁20 mg0.72 mg
ビタミンB₂0.20 mg
ビタミンB₆0.17 mg
ナイアシン3.1 mg
葉酸92 μg
パントテン酸0.34 mg
ビオチン60 μg9.3 μg
ミネラル微量(肝臓分解エキス由来:Fe, Zn, 他)Fe 0.59 mg, Ca 8–23 mg, K 124 mg, Mg 14 mg, 他
必須アミノ酸微量18種合計 3.9 g(リジン 290 mgなど)
核酸(RNA/DNA)含まれないRNA 221 mg, DNA 9.0 mg
プリン体113.3 mg

KLEは「ビタミン B₁・ビオチン+薬理活性成分」の補給向き、
エビオス錠は「マクロ栄養+微量栄養素+核酸・プリン体」の幅広い栄養補給向きです。


3. 成分別エビデンスの整理

3.1 熟成ニンニク抽出液

  • 動物試験:マウスの強制水泳疲労モデルで、持久時間延長・乳酸値低下を示した 。
  • ヒト試験:中年持久系アスリート12週間介入で、乳酸閾値改善・回復時間短縮 。
  • メカニズム:アリイン除去後増加するS-アリルシステインなどの抗酸化成分が、酸化ストレス軽減に寄与すると推測 。

3.2 肝臓分解エキス

  • CFS 患者15名 クロスオーバー RCT(筋注):プラセボ群との有意差なし 。
  • 公的見解:WebMD でも「慢性疲労に効果証明なし」と報告 。

3.3 ビタミン B₁

  • RCT(多成分):健康成人に28日間マルチビタミン投与で、持久力↑・疲労スコア↓ 。
  • 生化学的根拠:チアミンはピルビン酸脱水素酵素の補酵素として糖代謝必須。欠乏で易疲労性増大 。

3.4 ビオチン

  • 動物モデル:ビオチン欠乏マウスで運動能低下、投与で迅速回復 。
  • ヒトデータ:疲労改善目的のRCTはなし。

4. 1980–83 年度の社内臨床試験レビュー

著者・年デザイン対象数有効率(有効以上)主な限界
柴田博 1982単群前後比較 4/8週2975.9%無作為化・対照群・盲検なし、少数例
水野… 1983単群前後比較 4/8週3348.5%高齢・疾患混在、統計解析不明
中澤朗… 1983多施設単群前後比較 4週23860.5%多重比較調整なし、主観アウトカム依存、副作用15.8%

→ すべてプラセボ対照・盲検化・無作為化を欠き、内的妥当性は低い
→ 当時の製剤・評価基準と現行品の同一性保証も困難 。


5. EBM 的批判的吟味

5.1 内的妥当性

  • 主観的評価依存/多重アウトカム調整なし
  • 試験デザイン:全例単群前後比較/被験者・評価者非盲検
  • バイアス残存:プラセボ効果・自然経過・報告バイアス排除困難

5.2 外的妥当性

  • 対象集団:アスリート・CFS・高齢者など限定
  • 製剤差:抽出法・成分配合が現行品と不一致可能性
  • アウトカム妥当性:客観的運動試験やQOL尺度の欠如

5.3 生物学的妥当性

  • 熟成ニンニクの抗酸化・血流改善、ビタミンB₁のエネルギー代謝などは plausibility はあるが、ヒト RCT 水準では不十分 。

6. ケース別使い分けガイド

症例推奨薬品推奨度ポイント
デスクワークによる軽度疲労KLE動き始めのだるさ改善を重視
術後・抗がん剤後の栄養補給エビオス錠タンパク質+エネルギー+ミネラル補給が鍵
高齢者の低栄養+体重減少エビオス錠+KLE体重維持にエビオス、ビタミン補給に KLE
食欲不振・消化不良エビオス錠食物繊維・酵母酵素で腸内環境整備
妊娠授乳期の微量栄養補給KLE過剰リスク低、しかし設計上エビオス併用も検討可
疲労感+冷え性/血行不良KLE熟成ニンニクの血流改善が期待

7. まとめと実務への示唆

  1. KLE:ビタミン B₁・ビオチン+薬理活性成分で「軽度疲労感の改善実感」を得やすいが、マクロ栄養補給は不可。
  2. エビオス錠:広範なマクロ・ミクロ栄養を一度に補給でき、体重維持・術後回復などの栄養障害対策に最適。
  3. 併用で「量的栄養+薬理的滋養」を同時にカバー可能。
  4. 説明のポイント
    • 効果は限定的/プラセボ効果あり
    • 胃部不快感リスク/プリン体注意
    • 生活改善(食事・休養・運動)を必ず併用

参考文献

  1. PMDA 添付文書「キヨーレオピン w」(改訂R02)
  2. 湧永製薬 公式サイト「キヨーレオピン シリーズ」
  3. PMDA 添付文書「エビオス錠」
  4. Aged Garlic Extract improves endurance in mouse model
  5. Allen L. et al., Kyolic aged-garlic supplementation in athletes (2021)
  6. Plioplys AV et al., LEFAC in CFS: crossover RCT (1998)
  7. WebMD Monograph “Liver Extract Effectiveness”
  8. Hughes C et al., Multivitamin RCT in adults (2019)
  9. 厚労省「日本人の食事摂取基準2020」ビタミンB₁解説
  10. Biotin deficiency impairs exercise in mice (2020)
  11. 柴田博「キヨーレオピンの臨床的検討」一新薬と臨床 31(8) 1982 ​
  12. 水野尚敏ほか「キヨーレオピンの臨床的検討」一新薬と臨床 32(10) 1983 ​
  13. 中澤朗ほか「ニンニク配合製剤—疲労回復を中心として」一新薬と臨床 32(2) 1983 ​
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