【会話パート】
A:
最近、足がむくんで困っています。
B:
それは一日中むくんでいますか?それとも夕方になると特にひどくなりますか?
A:
夕方になると特にひどくて、靴下の跡がくっきり残るくらいです。
B:
むくみに加えて、体がだるいとか、疲れやすいと感じることはありますか?
A:
はい、ちょっと動いただけで疲れる感じがします。体も全体的に重だるいです。
B:
汗のかき方はどうですか?日中でもよく汗をかくとか、少し動いただけで汗ばむとか。
A:
そうなんです。少し動くだけでもじっとり汗をかくし、汗をかいたあとに疲れる感じもあります。
B:
むくんでいる部位を押すと凹んだまま戻らない感じですか?また、寒がりだったり、胃腸が弱い感じはありますか?
A:
そうですね、むくみは押すと凹んだままになってます。もともと冷えやすくて、胃腸も弱めです。食べすぎるとすぐもたれます。
B:
ありがとうございます。この症状からすると、「防已黄耆湯」が合っていると思います。
【解説パート】
◆ 証の決定:
表虚自汗・水湿停滞(脾肺気虚+風水)
Aさんの症状を総合すると、主訴の「足のむくみ」に加えて、
- 動くと汗が出る
- 疲れやすい
- 全身の重だるさ
- 押すと戻らないむくみ(→水湿)
- 胃腸虚弱(→脾気虚)
- 冷えやすい(→陽虚傾向)
これらはまさに気虚により水湿が運べず、体表に停滞している状態で、古典的には「表虚自汗・風湿在表」と呼ばれる病態です。
◆ 処方の選択理由:
防已黄耆湯
『金匱要略』の「風湿篇」に記載される名方で、
「黄耆湯主風湿、脈浮身重、汗出悪風者」とあり、
- 防已(ぼうい):利水・去風湿・鎮痛
- 黄耆(おうぎ):補気固表・止汗
- 白朮(びゃくじゅつ):健脾利水
- 生姜・大棗・甘草:脾胃を調和し、中気を養う
という構成により、**「気虚による水湿の停滞」**を改善する処方です。
特に、**むくみ+多汗+だるさ+冷えやすさ+体表の虚弱感(風邪をひきやすい)**がセットで見られる場合に適しています。
◆ 他処方との比較
処方名 | 証 | 特徴的症状 |
防已黄耆湯 | 気虚+水湿 | 汗かき、むくみ、だるさ、風邪ひきやすい |
五苓散 | 水滞 | 口渇あり、尿少、浮腫、急性症状にも |
真武湯 | 脾腎陽虚 | 冷え、むくみ、下痢、舌淡・脈沈細 |
苓桂朮甘湯 | 痰飲・水飲 | めまい、動悸、尿少、痰がらみ |
補中益気湯 | 中気下陥・気虚 | 疲労、倦怠感、むくみは少なめ |
このように、防已黄耆湯は「むくみ」を訴える患者の中でも、**「虚証+表の虚+湿重」**のパターンに最もよくマッチします。