【会話パート】
A:
最近、なんだか顔がほてるんです。暑くもないのにカーッと。
B:
それは一日のうちでいつ頃に起こりやすいですか?たとえば午後から夕方、あるいは夜間など。
A:
夕方から夜にかけてが多いですね。特に寝る前とか、お風呂上がりじゃなくても顔が熱くなります。
B:
そのほてりに汗は伴いますか?また、のぼせ感やイライラ、不安感などはありますか?
A:
汗はあまり出ませんが、イライラはあります。なんか小さいことに腹が立ったり、不安定になっている気がします。
B:
月経の状態はどうですか?周期、経血の量、色、前後の症状など、気になることはありますか?
A:
月経は少し遅れがちで、来る前に胸が張ったりイライラしたりします。経血は量が少なめで、ちょっと暗い色のときがあります。
B:
睡眠や食欲の様子はどうですか?夢が多い、寝つきが悪い、あるいは食後のもたれ感などありますか?
A:
寝つきは悪くて夢も多いです。あと、最近はストレスのせいか、食欲も落ちていて、お腹が張りやすい感じがします。
B:
舌の状態はどうですか?色や苔の様子、脈について覚えていることがあれば教えてください。
A:
舌は赤みがあって、先が少し赤いです。苔は薄白で、脈は少し弦っぽいと言われました。
B:
ありがとうございます。お話を伺う限りでは、「肝鬱化火」による火照りと考えられます。この場合、「加味逍遙散」が適しているでしょう。
【解説パート】
◆ 証の決定:
肝鬱化火(かんうつかか)+軽度の血虚
Aさんの主訴である「火照り」は、以下の随伴症状とセットで評価されます。
- 夕方以降の火照り+イライラ・不安定感
- 月経不順+PMS(胸の張り・怒りっぽさ)
- 夢が多く、寝つきが悪い
- 食欲低下+腹部膨満感
- 舌紅・脈弦
これらはすべて、肝気鬱結が進行して「肝鬱化火」となり、心神を擾乱しているパターンに合致します。加えて、月経周期や経血の少なさ、夢の多さから軽度の血虚も併存していると考えられます。
このタイプの火照りは、単なる「更年期のホットフラッシュ」や「陰虚による火旺」とは異なり、**肝気の滞りが熱化した“実熱に準じた虚実錯雑”**として位置づけられます。
◆ 処方の選択理由:
加味逍遙散
加味逍遙散は、逍遙散に山梔子・牡丹皮を加えることで清熱作用を強化した処方です。
- 柴胡・薄荷:疏肝解鬱
- 芍薬・当帰:養血柔肝
- 茯苓・白朮・甘草・生姜・大棗:健脾補気、調和中焦
- 牡丹皮・山梔子:清肝瀉火
肝鬱による精神的な不安定さ・月経前後の変調・火照り・軽いイライラに広く適応します。
**「火照るけど陰虚ではなく、ストレスと月経不順が中心」**というケースでは、加味逍遙散が非常にフィットします。
◆ 他処方との比較
処方 | 適応証 | 主な違い |
加味逍遙散 | 肝鬱化火+血虚傾向 | ストレス+火照り+PMSが中心 |
知柏地黄丸 | 陰虚火旺 | 顔の火照り+寝汗+五心煩熱 |
桂枝茯苓丸 | 瘀血 | のぼせ+下腹部抵抗・血塊・肌荒れなど |
抑肝散加陳皮半夏 | 肝陽化風+痰湿 | イライラ+動悸+喉のつかえ感など |